ヒトデは、6億年前から地球上にいる原始的な動物です。私は、ヒトデ幼生の間充織細胞(次段落参照)の機能に着目して、受精卵から幼生になる発生過程で、どのようにして動物固有の形が出来てくるのかという問題を研究しています。ヒトデを使う理由のひとつは、ヒトデが属する棘皮(きょくひ)動物は脊椎動物の先祖にあたるからです。ヒトデの研究を通して、人間のことも沢山わかってくるのです。ヒトデ幼生の体長はわずか1ミリ程度ですが、口や食道、胃、腸などの各器官が、人間のように配置されています。そう思って見れば、人間の頭、肩、ウエストと似た形に思えてきます(図)。

幼生の構成細胞は、上皮細胞と間充織細胞に大きく分けることができます。上皮細胞は互いに接着し合ってシート状になり幼生の全表面を占めます。一方、間充織細胞は個々が散在した状態で幼生内部に位置します。幼生に到るまでの胚発生の過程で、上皮シートは単純な中空ボール状から「肩」や「ウエスト」を持つ特有の形に変化してきます。このとき、間充織細胞は上皮細胞が胚胎内部に分泌する糸状物質に作用して、ヒトデ幼生に特有な形を維持する役割を担うことが判ってきました。その作用実体は、胚体内の違った場所ごとに、間充織細胞は糸状物質をより太い繊維に編んだり、逆に解いたりしているのではないかと思っています。

間充繊細胞には、別の機能もあります。幼生の身体にウニ精子などの異物を注射すると、間充繊細胞は集まってきて食べてしまいます(貧食作用)。ウニ精子と異なりヒトデ精子に対しては、間充織細胞の貪食作用は生じません。では、ウニとヒトデの精子を混ぜて注射するとどうなるか。ウニ精子だけを食べるのです。間充繊細胞には、種の違いを識別する能力もあります。最近、間充織細胞には、上皮細胞の増殖を誘起する機能があることも見出せています。

細胞まで解離されても、
くっついて再構築する不思議

ヒトデが幼生に到る前の段階である胚には、他の動物胚にない形態形成能があります。いったん個々の細胞までバラバラにしても、細胞同士がくっついて、正常発生とは一見異なったやり方で幼生の形を再構築できるのです。正常発生の進行メカニズムと比べることで、新規な発見がありそうです。今後、ヒトデ胚にしかできない芸当でもある再構築の解明に重点を移しつつ、ヒトデの形態形成研究を継承してくれる人材も育てたいと考えています。