現代日本の小中学校における美術や図画の授業の源泉の一つに、ドイツのワイマール共和国時代に確立された方法論があります。私は、当時の芸術教師たちの理論と実践に興味を持ち、彼らが児童画をどうとらえて、どんな芸術教育を行っていたのかを中心に研究しています。

小学校低学年までの子どもたちの、表情溢れる描き方や色彩の使い方に彼らは関心を持ち、それを刺激する教育法を実践していました。たとえば、物語を聞かせてそのイメージを描かせたり、音楽を聞かせ表現させたりしました。当時は共感覚が注目され、画家のカンディンスキーが音楽のリズムや色の響きを絵で表現したり、音楽家のスクリャービンが音に合わせて色の光を映し出す演奏会を行っていました。心理学者も共感覚に注目し、子どもは視覚や聴覚などが未分離で、音を色で感じ絵を見て音楽のリズムを感じやすいことが研究で明らかになっていました。そうしたことを背景に、教師たちが目指していたのが、感性教育です。子どもが、自分の感じた〈世界の質感〉をうまく表現できる力をつけさせようとしていたのです。

では、当時の芸術家や教師は、そのことで何を意図していたのか。研究から見えてきたのは、芸術表現とは自分の感じた世界やその時の自分の質感を他者にうまく伝えられるシンボルをつくる行為であること。そして、このシンボル形成は、自己イメージやアイデンティティの形成に密接に関わっています。

自己イメージをシンボルで表す

シンボル形成としての芸術表現を理論化して、現代の芸術教育に示唆を与えられないかと考え、いま芸術教育のプロジェクトを計画しています。芸術やモノを通して、小中学生に自分のもっている様々なイメージ(像)を確認=形成してもらおうという試みです。たとえば、友情や家族を象徴する具体的なモノを持ってきてもらい、なぜそれを選んだのかタイトルをつけてもらう。自分が友情や家族をどう思っているかに気づけると同時に、他の人にも伝わります。この経験が、自己イメージを形成するキッカケになればと考えています。

私の願いは、子どもたちが個として強くなること。そのためには、自己イメージを持つことが欠かせません。自分は何を目指しているか、何を望んでいるのか。モノ=シンボルに託すことで見えてきます。現代において、何か正しい生き方を示して引っ張っていくような教育はありえません。まずは自己イメージを築くためのキッカケを与えること。そのための方法論や技を教えること、これが教育の責任だと思います。

ワイマール共和国時代の
美術教育本『子どもの中の守護天使』。