私の専門はスペイン文学ですが、時代でいえば20世紀前半のスペイン内戦が終わる1939年まで、それも文学だけではなく、文化活動全般を当時の社会と関連づけて捉えようとしています。なかでも詳しく研究しているのは、1920年前後にマドリードを中心に起こった「ウルトライスモ」(超越主義)と呼ばれる前衛文学運動です。

この運動は、主として詩の分野で展開しました。マドリードの文学カフェにたむろする青年詩人たちが、スペイン文学を刷新するのだという意欲に駆られて1919年に宣言文を発表したことに始まります。当時ヨーロッパ各地では、機械文明のダイナミズムを礼賛する未来主義や、既存の文学の破壊を唱えるダダといった前衛運動が起きていました。また、第一次世界大戦でスペインは中立国だったので、各国の芸術家が戦禍を避けてスペインにやってきました。こうした影響や刺激の中で、ウルトライスモは生まれたのです。

さぞかしすごい文学運動で、有名な詩人たちが活躍したと思われるかもしれません。でも、実はまったく違います。私が研究を始めた20年前は、スペインですらウルトライスモは知られておらず、本格的に研究対象となったのはここ15年ほど。というのも、運動の中核を担った詩人たちに卓越した才能の者がおらず、文学的に価値のある作品をほとんど生み出せなかったからです。

それでも、なぜ私がウルトライスモに惹かれるのか?ひとつには、いわゆる「ヘタウマ」の魅力です。素人くさい作品も多いけれど、その作品からはマドリードのカフェで議論をかわし、試行錯誤しながら詩作に励んだ雰囲気や街の息吹が伝わってきます。また、様々な言語上・表現上の実験を行い、既存の詩の約束事や既成概念から言葉を解き放ったことで、スペイン詩にあらたな可能性を拓きました。文学と造形美術(特に絵画)とのコラボレーションや、ラテンアメリカの詩人、芸術家たちとの交流も興味深いところです。

無名の詩人たちの作品と活動を掘り起こす

ウルトライスモの詩人たちの多くが、不遇の生涯を送りました。なかば忘れ去られた彼らの作品と活動をうずたかく積もった埃の下から掘り起こし、その魅力について伝えられればと思います。また、ウルトライスモを糸口として、20世紀前半のスペインの文学、芸術、社会について興味が広がりました。今後はこれら全般について情報発信できればと考えています。

ウルトライスモの雑誌『グレシア』(1919年)。
右下に添えられているのは、モダニティの象徴たる自動車のオイル缶。