私の専門はオセアニア考古学。赤道を挟んで、北緯10度と南緯10度の間に散らばるサンゴ礁の島々が、主な研究フィールドです。

発掘調査では2m四方の小さな穴を掘ります。深さはせいぜい2m。そのぐらいで地下水が湧き出るからです。地層の断面はまさにその島の歴史。サンゴと有孔虫からなる砂礫層、先史の島民が起こした炉の跡、彼らの遺した貝の釣針といった出土品に興奮しながら、ふと目を上にやると、島の子どもたちが覗き込んでいました。そのとき、歴史が積み重なった地表面に、今の人々の暮らしがあることを実感しました。そこから発想したのが、島の自然の中で人びとがどう暮らし、自然にどんな手を加えてきたのかという、自然と人間の絡み合いの歴史。今の景観が生み出されてきた歴史を通史で把握する「景観史」の新しい視点が浮かび上がってきたのです。

オセアニアの島々はいま、地球温暖化による海面上昇の問題に直面しつつあり、たしかにマスコミではフナフチ環礁(ツバル)の水没の危機がしばしば報道されます。しかし、すべての環礁が一様に危機に瀕しているのでしょうか。じつは私たちの景観史研究によって、フナフチ環礁が海水準の上昇や気候変動に対してもともと脆弱であったことが初めて明らかになったのです。一見似たような景観でも形成過程を調べると、人間の居住にとって弱い島もあれば強い島もあることがわかってきます。海面上昇への対応策を島ごとに考えるとき、キメ細やかな景観史研究が貢献できることは少なくないはずです。

サンゴ礁と人間の共存を考える学際的な研究も

今後も景観史の研究を深めていき、慶應の民族学考古学専攻の一つの特徴になればと考えています。研究手法の中心になるのが、地球科学と考古学を連節したジオアーケオロジーです。微細な出土遺物の分析に力を発揮する元素分析装置や電子顕微鏡など、私たちの研究室には人文科学系では珍しい機器も整っています。

現在、地球温暖化の問題を契機に立ち上がった「サンゴ礁学」にも取り組んでいます。文部科学省の新学術領域研究に採択された学際的なプロジェクトで、地球科学やシステム工学、生物学、化学など今まで以上に多様な領域の研究者と協働し、サンゴ礁と人間との共存を図る新たなモデルを探究しています。異分野の研究者との対話は簡単ではありませんが、これも大きなチャレンジの一つです。

指導している大学院生と共に。
フィールドワークも一緒に行っている。