発達に偏りや遅れ、そのリスクのある乳幼児や児童の臨床発達心理学を専門に研究しています。自閉性障がい、学習障がいなどの発達障がいには、脳の発育と機能の不全があります。脳といっても、必ず視覚、聴覚、触覚などのルートで、まわりの環境と相互作用を行っています。そこに、心理学が活躍できる領域があります。どんな働きかけをすれば発達を促すことができるのか、脳機能も含めて多様な分析データを蓄積しています。それらのデータをもとに、実際に個々の子どもたちの発達支援を行ったり、広く活用できるように療育プログラムを開発したり、保護者に対する支援や、学校の先生方へのコンサルテーションなど、幅広い臨床活動を行っています。

たとえば、お母さん、お父さんは赤ちゃんを名前で呼ぶとき、反応を見ながら無意識に抑揚を変えて、一番反応する呼びかけ方を学びます。ところが、発達障がいのある赤ちゃんは、呼びかけに反応しにくいところがある。そのため大人の働きかけも減り、対人関係がギクシャクしてしまいがちです。私達は、どんな呼びかけの抑揚やリズムなら子どもたちは反応するか、それらを言語として認識し、模倣するかなどをビデオで撮影し、分析しています。声の抑揚は周波数変化の幅で表します。また大人が笑いかけている画像を子どもに見せ、それへの視線や口角の動きもデータ化しています。そうした科学的なデータをもとに、対人関係の発達を促していきます。

これから新しい研究と臨床活動として、小児科医と協力し、一歳半健診での、自閉性障がいや社会機能障がいの早期発見と、早期療育のプログラムの開発と評価を行います。自分たちの研究プログラムが、心、行動、発達の改善につながり、それらの問題で悩む方たちに広く活用されるようになればうれしいですね。

理科系要素があるが、文科系のセンスが重要に

慶應義塾大学の心理学専攻の大きな特色は、心理学の基礎である実験心理学に重点を置いているところにあります。文学部の中で理科系の要素が強いため、異色の専攻と言えます。理科系科目が苦手な自分には向いていないのでは、と思うかもしれません。でも、統計学、実験方法、プログラム作成法などは専攻に来てから学べばよいのです。大切なのは、文科系的センスです。心という、ある意味曖昧なものを対象とするだけに、広い枠組みで人間を見つめることが重要です。そうしたセンスを持ち、「人の心を知りたい」「心と脳の関係に迫りたい」「心の問題で悩んでいる人を助けたい」という素朴な興味を追求できる人が、心理学の研究に向いていると思います。

相手の目を見ている幼児の視線
幼児が、大人の顔の表情のどこを見てその感情を読み取っているかを、視線追跡装置で調べる。赤が集中的に見ている場所です。