慶應義塾大学アジア基層文化研究会台湾法師の儀礼とシャーマニズム

1・「法事」について


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 「打城」法事の具体的な内容に入る前に、法師の行う「法事」一般について簡単に説明をしておきたい。 

「法事」という言葉はもともとは仏教用語で、亡魂の超度を目的として行われる、念経・供仏・施斎・拝懺・求福消災などの宗教活動(=仏事)のことを指している(注8)。また道教では、斎しょう(祭り)において演じられる各種の「道法の行事」のことを「法事」と呼んでいる(注9)。一方現在、台湾の法師の間で、および民間で通用している「法事」という言葉は、これらとは若干ニュアンスが異なり、「法術を用いた行事・儀礼」という程の意味で使われている。

 法師が行う法事の多くは、符(フウ、お札)やまじないによる「駆邪押、邪悪なものを祓うこと)を目的としたものであり、それゆえに法事は民衆の日常生活に非常に密着した宗教儀礼であるということができる。

 法事は「陽事」と「陰事」に大別される。陽事とは生者に関係した法事、陰事とは死者に関係した法事のことである。陽事には「開光点眼(カイコンティエムガン)」(新しい神像に「霊(リエン)」(魂)を入れる「入神(ジツシン)」の法事)(photo1)、「補運(解運、改運)」(悪い運勢を改める、一種の厄除けの法事)、「コオギナアクアン」(病気がちの子供の厄を祓う法事)、「開廟門(カイビオムン)」」(新しい廟の門を開く法事)、「安座(アンンツオ)」(新しい神像を廟に安置する法事)(photo2)、「コオシウ」(地域社会を守護する「五営神将(ゴオイシンチオン)」の労をねぎらう法事)(photo3)などがある。一方陰事には「打城」、「冥婚」(死霊婚)(photo4)などがある。これらの法事を、廟ないしは地域社会を単位として行われるもの(「開廟門」「安座」「コオシウ」など)と、個人が法師に依頼して行われるもの(「補運」「コオギナアクアン」「打城」など)に分けることもできよう。

「開光点眼」

「補運(解運、改運)」

「コオシウ」

「冥婚」

個人の依頼による法事は、個人の家で行われる場合と、廟で行われる場合とがある。いくつかの法事は、特定の廟と密接に結び付いている。台南市の例でいえば、「開光点眼」法事は専ら天の最高神・玉皇上帝(天公)を祀った廟(忠義路の天壇、安南区土城の鹿耳門正統聖母廟など)で、「補運」法事は司命の神・北斗星君を祀った廟(天壇後殿、佑民街の開基玉皇宮など)で、「コオギナアクアン」法事は安産の神・臨水夫人を祀った廟(建業街の臨水夫人廟)で挙行される。台湾民俗宗教のコスモロジーにおいては、多くの神々が玉皇上帝を頂点とする一大官僚組織の中でそれぞれの職務を分掌している形になっているため、人間の方でも、目的に応して、お願いする相手の神様を使い分ける必要があるのである。

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注釈

注8)王景琳也編『中国民間信仰風俗辞典』北京・中国文連出版公司、1992,636頁。

注9) 李叔還編『道教大辞典』台北・巨流図書公司、1979、407頁。


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