仏道迎えの映像(1995年、3分43秒)
                                                   野村伸一

 
   映像(3分43秒) ハルマンのタリチュッキム。悪心花折り(災厄除け)。ソウジェッソリ。

    関連 → 1986年10月16日の映像「ハルマンの橋のゆらぎ」


生育の女神仏道ハルマンの来臨。済州島臥屹里


ハルマンの来臨はタリ(布橋)のゆらぎで劇的に表現される。


 〔映像の背景〕

 1995年3月済州島臥屹里でトンイプリ(治病の祭儀、注参照)がおこなわれた。三日間の儀礼で、その一日目の晩に仏道迎え(プルトマジ)があった。その次第は次のとおり。

 午後4:42〜    韓生昭神房による仏道迎え。仏道ばあさんという生命を与えると同時に、子の成育をも管掌する女神を迎え、もてなす。まずチョガムジェ(神招請の儀)から。
 6:40     仏道迎えのチョガムジェつづく。神宮門が開いてから、本主と息子をすわらせてセドリム(厄払い)。
 7:00      五里亭神請じ入れ。
 7:55      神饌献上。 
 8:30〜10:00 仏道迎えのなかの水陸チム。仏道ばあさんがやってくるさま(タリチュッキム)が白い布のゆらぎとともに劇的に演じられる。仏道ばあさん本縁譚。悪心花折り(災厄除け)。厄払い。

  こののち、さらに二公本縁譚。そして西天花畑から生命の花を取ってくる花摘み。次に祖先をあそばせるソクサッリム(第2回目)。軍雄ポンパン。こののち本主らがソウジェッソリに合わせて踊る。この踊りは治療でもある。
 午後11時過ぎ、終了*1

 
*1
野村伸一「トンイプリ−甕を解く儀礼」慶應義塾大学日吉紀要刊行委員会『日吉紀要 言語・文化・コミュニケーション』No.19、1997年、119頁参照。


 仏道ハルマンと東海龍王のむすめ−生と死 
 
 巫歌[仏道ばあさん本縁譚]によると、仏道ハルマンは明鎮国のむすめである。玉皇の命を受けて、東海龍王のむすめと花咲かせ競争をし、勝利する。これによって、以後、仏道ハルマンはこの世の人びとに生命の花をもたらす神となる。一方、東海龍王のむすめは人の死を管掌するに到る。ここには済州島民の生命観が反映されている。海底、とくに龍王の世界は死者の霊魂がいくところという見方がある。これは沖縄などにもみられるもので、おそらく東シナ海一帯に広がる観念といえるだろう。

 二公という神 
 
 [二公本縁譚によると]ある夫婦が花の監督官となるために西天花畑に向かう。しかし、身重の妻が途中で歩けなくなる。夫は妻を長者の家に置いて一人西天花畑に向かう。一方、残された妻は息子を産む。だが、長者に虐待される。そして、子供だけを逃してみずからは死ぬ。息子は西天花畑にいき、父に会い、それまでのいきさつを語る。父は息子に、長者一家を滅ぼす花と母を甦らせる還生花を与える。そして、息子はいわれたとおり、その花の呪力を発揮する*2

 
*2
野村伸一『東シナ海祭祀芸能史論序説』、風響社、2009年、220頁。


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