1.テイヤムとは

　インドのケーララ州北部にテイヤムTeyyamとかテイヤッタムTeyyattamとよばれるまつりが伝承されている｡ムラにより「まつり」を意味するカリヤッタムという語が用いられることもあるが、一般にはカミを意味するテイヤムで通っている｡それはK.K.N.クルップ氏によると､ヒンドゥー文化以前のムラまつりのかたち､演戯を濃厚に残したものといわれ､東アジアのまつりや芸能を考える上にも興味深い点が多い｡テイヤムとはヒンドゥー語でカミを意味するデイヴァムdeivamに由来する（K. K. N. Kurup、"THE CULT OF TEYYAM AND HERO WORSHIP IN KERALA"、Indian Publications、1973、p.3）｡いうまでもなくここでも土着の宗教､文化の上にヒンドゥーの宗教がおおいかぶさっていて､カミの名のうちにもヴィシュヌが現れたりする｡

2.テイヤムの時期

　テイヤムは新暦の１月から４月にかけて多い。ただ､わたしのばあいは1991年12月25日､カナノール地区ラマンダリ村のムタッパン寺で､また12月27日から30日朝までの4日間､パヤノール地区のカンダンガリ村でテイヤムをみた｡それはまさに色彩の跳梁であった｡ことにカンダンガリ村のテイヤムでは､まずカミよばいがあり､次にカミの訪れの前兆が演じられ､奇抜ないでたちのカミが次つぎと眼前に現れ踊りつつ巡る｡そして村人に花と欝金色の粉末を与えつつ祝福しては去っていく。そこには特別の芸能があるわけではないのだが､不思議な魅力がある｡カミの装いだけでも人目をひくのだが、それだけではない。緩急自在の太鼓と踊り、担い手の異様に輝く目、また腰布だけをまとった男たちがはだしで燃え残る火を蹴散らしていく勇壮なシーンなどがまつりののちにも余韻として残りつづけた。

3.テイヤムの地域

ケーララ州はインドでは、一般に好感を持たれている。確かにかなりの田舎にいっても緑が多く、ムラの雰囲気も裕福とはいえないまでも、こぎれいである。一体に教育水準が高いといわれ、よそ者に対する人びとの応対は驚くほど親切である。このケーララ州には北のほうから南にかけて、テイヤム、ムディイェットゥ、パダヤニという祭儀が伝えられていて、これらは北隣カルナータカ州のブータ、また南に下ってスリランカの仮面戯コーラムや悪霊払い儀礼トヴィルなどと一連のものとして理解するべきだともいわれている。

このうちテイヤムの伝承地域はコラットゥナドゥKolathunaduとよばれてきた｡それは現在のカナノール､カサラゴッド地区にあたる｡

4.カミを踊る者たち

カンダンガリ村での聞書によると､テイヤムの担い手としてはヴァンナンVannan､ヴェランVelan､マレーヤンMalayanの3種のカースト･グループがあげられる｡いずれも現在は最下層のカーストに位置づけられている｡このうち､ヴェランはひじょうに由来の古い集団である｡クルップ氏によれば､ヴェランによる祭儀は古代タミル地方のサンガム文学のなかにすでに述べられている｡すなわち､武器を携えての踊り､病む者への治療行為､トータムTottam photo1、photo2、photo3、VTR1、VTR2、VTR3、VTR4、VTR5、VTR6）とよばれる祭文での神がみへのよびかけなどであるが､これは後で述べるようにほとんど現在のテイヤムのなかで再現されている｡しかも､ヴェランは､サンガムのなかで､背に布を垂らし､頭には大きな飾りを着けると謳われている｡これまた現今のテイヤムにおいてカミをよび迎えるときにそっくり再現されている｡

このサンガムは1世紀から3世紀ごろにかけて作られたもので古代タミル人の生活や価値観を知る貴重な資料とされているが､クルップ氏は｢サンガム伝承が途切れずに維持されたということ､これあるがためにテイヤムは北ケーララの特異な宗教システムだということができる｣と述べている（K.K.N.Kurup“Teyyam”,director of public relations govt.of Kerala,1986,p15.）｡

ところで､カンダンガリ村のテイヤムはヴァンナンによって担われた｡かれらは自分たちより上位のカースト集団が持つ寺院に出向き祭儀を担う｡まつりは主に1月から4月ごろまでで､この間は毎日のように儀礼がおこなわれる｡それ以外の時期にはムラから生活費を保障される｡かれらはまつりのときには家族でやってきて野外で寝泊りをする｡女は寺院の外側で食事の支度をし､男は境内の隅で儀礼の準備をしたり､ごろ寝をしたりする｡

なおカンダンガリ村の祭儀ではヴァンナンとは別に3人の寺の祭司がいて､カミとヴァンナンとの仲介者の役割を果していた｡かれらはヴァンナンとは別のカーストに属しコマーラムKomaram（photo4、photo5、photo6、photo7、photo8、VTR7、VTR8、VTR10、VTR11、VTR12、VTR13、VTR14）とよばれていた｡

5.カミの系譜

テイヤムの一連の儀礼ではトータムがまずとなえられる｡これはカミ勧請である｡ここによび出されるカミがみのうち際立って重要なのがバガヴァティBhagavathiという名の女神である｡地母神であり､また戦いのカミでもある｡このほかに､トータムにおいては精霊崇拝、英雄崇拝､masathi崇拝､樹木崇拝､祖霊崇拝､動物崇拝､蛇神崇拝､疫病女神の崇拝､gramadevata崇拝なども含まれる（K. K. N. Kurup、"Teyyam"、director of public relations govt. of Kerala、1986、p.17）｡

バガヴァティの伝承

さて、カンダンガリで聞いた主神カンナンガット･バガヴァティの伝承は次のとおりであった｡かつてカムサンKamsanという悪神がいた｡このカミはクリシュナのおじだがアシュラでクリシュナの姉たち７人を殺した。８番目の男の子クリシュナは父バスデーバにより、生地ドゥワラカを離れてアンバーディへ連れていかれる。そこでカルティヤニKarthiyaneという名の女の子に会った。そしてこの女の子と父はドゥワラカにもどるが、クリシュナはアンバーディに居残る。やがて、カムサンがドゥワラカにやってくる。そこで、カルティヤニとカムサンが戦うが、カルティヤニは女の子ではあるが、シャクティがあるので殺されず、空に逃げてしまう。カルティヤニは、カムサンに「お前はクリシュナに殺されるだろう」と予言する。何年かのちにクリシュナがドゥワラカに戻ってきてカムサンと戦い、とうとうカムサンを殺す。そののちクリシュナはある老人に出会う。そして「ひとりの女の子がいる。この女の子をお前のイエに連れていけ」という。老人はいわれたとおりにする。やがて女の子は成長し神威を発揮し、バガヴァティとなった。このような伝承がトータムにおいてとなえられるのだという｡

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テイヤム：色彩と跳躍の女神たち