私は、平安時代の物語作品について研究しています。特に、『源氏物語』などにしばしば描かれる後宮の世界――天皇の后妃たちの身分やその宮中での暮らしぶりに関心があります。宮廷社会を扱った平安時代の物語には、主要人物として、天皇・皇太子の后妃たちが多く登場し、彼女たちの住まいである内裏後宮の建物(後宮殿舎)が舞台となって、さまざまな出来事が描写されます。このように、物語を読み解く上で重要と思われる後宮ですが、その実態については、不明な点が多いのです。そこで、私の研究では、まず歴史資料を丹念に調査して、後宮のありようを解明した上で、物語の設定と比較するということを行っています。平安時代の物語は、当時の史実(歴史的事実)を多く作中に取り込んで成立していますが、一方で、虚構の作品ですから、史実に反する設定が、作者によってあえてなされている場合もあります。歴史資料の精査によって、史実と虚構に明確に線引きをし、物語が素材とした史実を発見することや、虚構の設定の背後にある作者の意図を探ることが、可能になります。最終的には、『源氏物語』のような傑作が生み出された方法に迫ることにつながるのです。