講演会の概要:
人は社会の中で様々な文化を受容し、後世に伝えることで、言語や芸術などの高度な技術を発展させてきました。文化伝達の能力をもつ動物は珍しく、霊長類でもチンパンジーなどいくつかの種で報告されているのみですが、奇妙なことに、鳥類の一部が、人の文化にも似た複雑な行動を伝えている例が知られています。特にスズメ亜目の鳥(歌鳥)は、複雑な歌をさえずることで知られ、幼少期に聞いた歌を記憶して、その後の長い練習を通して、正確に模倣する能力をもっています。また、歌鳥は、極めて社会的な動物で、幼少期には周りのおとなから育てられ、繁殖期には特定の相手と緊密な社会的結合を形成して、群れの中で多様な音声コミュニケーションを行います。さらに歌鳥は、求愛に使う歌のみならず、音楽的な刺激にも好みをもつことが明らかになってきました。本講演では歌鳥による歌の伝達とその神経メカニズムに関する最新の知見を紹介し、歌鳥の研究がどのように人の文化や美的感覚の理解に役立つか議論できればと思います。