ドイツ演劇を中心に舞台芸術の分析・研究を行っています。それは、演出や俳優の演技、舞台装置などの特徴をさまざまな視点から考察する「上演分析」を核としています。

日本とは異なり、ヨーロッパ各国では19世紀から20世紀にかけて演劇が舞台芸術として市民社会に認められ、単なるエンターテインメントを超えた意義が広く理解されています。大学では1980年代から演劇研究が重視され始め、従来の歴史・戯曲研究に加えて、上演の特徴を探究する試みが盛んに行われています。なかでもドイツの演劇学は高水準で、世界中の演劇研究者から注目されています。そうした優れた演劇研究を日本に紹介するのも、私の仕事です。

上演分析を行うには、演劇をライブで観る必要があります。ドイツで年間数十本の演劇を観て、その特徴や魅力を日本に紹介しています。重要なファクターは演出です。文学的理解、視覚的な演出や聴覚的な演出、俳優の身体性など、多様な要素のすべてを演出家がまとめています。私の上演分析や演劇研究が、日本の演出家の参考になればと考えています。

他方で、日本の優れた演劇をヨーロッパに紹介する活動も行っています。現代日本演劇は世界的には、未知の領域に等しく、ドイツ語や英語、フランス語で書かれた現代日本演劇の本は、ほとんどありませんでした。そこで、昨年仲間の研究者と共著で『Theater in Japan』を出版。100年ぐらい前の日本の新劇から最新の演劇まで、ドイツ語で紹介しました。

演劇には時代や社会を動かす力がある

演劇には、集団創作のライブ性ならではのエネルギーがあります。これが、社会を突き動かす大きな力となります。たとえばベルギーの独立は、オペラ公演に触発された観客の反乱から実現にいたりました。

元気がないと言われる今の日本社会には、新しい力が求められているようです。『○○力』『勝つための○○』といった本が多く売られていることからもわかるでしょう。ただ、いわゆるゴリ押し的な力だけではもはや通用しません。グローバル時代に求められているのは、ダイバーシティ(多様性)に対応できる、繊細さを含んだ複合的な力。そんなエネルギーを発揮できる演劇を紹介していきたいと思います。とりわけ若い人たちには、演劇体験を通して、難しい時代だからこそ通用する活力を身につけて欲しいと考えています。


※所属・職名等は取材時のものです。