私は中国現代の女性文学について研究しています。中国では古来、女性は無学であるのが好ましいとされてきました。これが大きく変わったのは、近代以降です。20世紀に入って女子教育が制度化され、女性の進学率が上昇、そうしたなかで女性作家も数多く登場しました。
私が研究対象としている女性作家・丁玲(1904-1986)もそんな一人です。丁玲は初期の代表作『莎菲(ソフィ)女士の日記』(1928)で若い女性の性的欲望を大胆に表現し、高く評価されました。その後、夫を国民党に逮捕・処刑されたことを契機に、作品の内容を左翼的なものに大きく変化させます。共産党に入党し、様々な職務を歴任しながら執筆活動を続けました。そんななかで、共産党幹部のあいだに存在する性差別を指摘する「国際婦人デーに感あり」(1942)というエッセイも発表しています。党を悪く言ったとして激しい批判を受けましたが、女性が一人の人間として生きることを率直に求めた人であったと言えます。
激動の時代の中国を生きた作家ですが、その作品に表れる問題意識は、現代の日本の女性を取り巻く問題にも通じるところがあると感じます。日本と中国は文化的に共通する面も多い一方、歴史的・政治的に異なる面も多々あります。そうした背景から生まれる共通点や相違点に注目しながら、中国の女性の生き方を探りたいと思っています。