文学部哲学専攻では、古代から現代まで、哲学の幅広い分野について学ぶことができます。私はその中でも、言語と論理の哲学に関係する問題を中心に研究しています。「言語と論理」というと難しく感じられるかもしれませんが、私たちがふだん使っている言葉やそれが伝える意味や情報といったものが主題で、その最初の方にある問いを理解するのはそれほど難しくありません。例えば、私たちはいまここで初めて目にした文章でもほぼ一瞬で理解し、そこから新しい情報を引き出すことができます。人からはっきりとルールを教わったわけでもないのに、こうやって言葉を理解したり、思考を整理したり、人に何かを伝えたりできるということは、考えてみると不思議なことです。問題の一つはこういうふうに言い換えることもできます。単語には辞書というものがありますが、単語が集まってできる文や、ここに書かれているようなもっと長い文章には「辞書」というものはありません。それはなぜでしょうか。私たちは、旅行会話集のようにひとつひとつの文を丸暗記して使っているのではなくて、単語の知識と何らかの「ルール」に従ってその場で、いわば即興的に文を作って話をしているように見えます。その「ルール」とはいったい何でしょうか。こうやって考えていくと、たんなる音や文字が連なったものが何かを意味することができるのは実に不思議なことに見えてきて、そもそも意味とは何か、それはどこにあるのか、何かを意味することがどうして可能なのか、こうしたすぐには答えが出ないような問題に頭を悩ませることになります。