出発点となったのは、デュルケームの『フランス教育思想史』という書物です。一般に、思想史というと、ある特定の人物の思想を対象とするものや、列伝を思い浮かべますが、同書は、フランスの中等教育を対象とした思想史です。同書の特色は、フランスにおいて、職業人や専門的知識の教育ではなく、一般的な人間形成を目的とする教育観がいつ誕生し、どのような文化的、歴史的経緯によって現在に至っているのかを、キリスト教的精神と異教的精神、知識・教養観、コレージュ(学寮・学院)の発展、主要な教育思潮をとりあげながら克明に明らかにしていることにあります。職業教育や専門教育への社会的な要請が高まるなかで、より大きな歴史的枠組みのなかに教養問題を位置づけなおしていること、フランスの教育観を相対化するための視点を提示していることも特筆すべき点として挙げられます。