私が研究対象として扱ってきた作家スタンダール(1783―1842)の作品は、恋愛や冒険など小説らしい心浮き立つ場面がたくさんありますが、細部に目を向けると首をかしげざるを得ない個所にも出会います。とくに私が困ったのは、人物の心理を表すのに「美徳」、「名誉」、「高邁」などモラルを示す言葉がしばしば用いられているのですが、その内実がよくつかめなかったことです。これらモラルの理想に注目しながら、旧体制(アンシャン・レジーム)から1789年のフランス革命を経て19世紀へと向かう時代の社会状況や価値観の変化を論じています。こうすることで、私たちがいま生きている社会の規範や常識を考えなおす手掛かりになるでしょう。