最近は出生前検査の文脈での諸課題を検討しています。検査技術の革新により、この領域では、検査の普及が障害者への差別や偏見を助長・強化するのではないか、優生学や優生思想に結び付いているのではないかといった様々な倫理的問題が提起されています。私の研究では「自由」や「自己決定」の考え方に依拠して問題を考えることの限界を踏まえつつ、それに代わる概念や価値の枠組みとは何かについて検討しています。
倫理学に依拠したこうした生命倫理の研究はこの領域の諸問題の解決に何らかの点で役に立つと信じて研究を行っています(とはいえ自信を失うこともしばしばですが)。他方で、問題解決にあたっては、他領域の研究者とのディスカッションや共同研究が不可欠です。「多事争論」という福沢諭吉の精神は、こうした生命倫理の考えと重なるものであり、人文系の多領域の研究者が集まる慶應義塾大学文学部は、現在の研究を学際的に発展させていく上でとても恵まれた環境だと思っています。