17世紀オランダを代表する画家フェルメールは、今日、国際的にも高い人気を誇り、窓から差し込む光の中で静かに手紙を読む女性など、日常の一瞬を捉えた表現によって人々を魅了しています。ただし、その魅力はいつの時代においても認識されていたわけではありません。たとえば、18世紀前半の絵画市場におけるフェルメール作品の評価を調べてみると、競売でのその落札価格は、当時の人気画家の作品と比べて驚くほど低かったことがわかります。美術研究において「価格」を考察することに違和感を覚える人もいるかもしれませんが、作品購入に支払われた金額は、実はその時点における画家の評価と深く関連しているのです。価格が通常より高く、あるいは低くなった場合、そこには必ず何らかの理由があり、それを探ることで当時の評価の実態に一歩近づくことができると考えています。価格の背後に潜むコレクターや画商たちの意図や野心を明らかにし、彼らの視点から絵画作品を分析していく──その過程には、謎を解きながら過去と対話する知的探究の醍醐味があります。