文学部の知的領野の拡がり

慶應義塾大学文学部は、「文」にかかわる広大な領域を対象にした研究教育機関です。
その「文」学とは、小説や詩などの文芸に限定されるのではなく、広く「学芸」(学問・芸術・科学)全般を包含する「知」を意味します。

もちろん人類の文化活動の象徴的な成果である文学や言語、そして芸術を学ぶことは、文学部にとって欠くことのできない要素です。しかし私たち文学部の知的探究の領野はそれにとどまりません。真・善・美にかかわる哲学的な叡智の追究、人類の歩みとこれからを展望する歴史的な探究、記録された知識や情報の保存と活用に関する理論と技術の構築、社会の構造や機能とそれを構成する人間の心、行動、形成などについての科学的検証、さらには文化創成の基盤をなす自然環境と人間との相互作用の解明など、人間と社会そして自然のすべての領域に、私たちの眼差しは向けられています。まさに人類がつくりあげてきた世界の文明、社会や環境、そして人間そのものをめぐるあらゆる分野にわたっているのです。

人文社会学科:
5学系17専攻・2部門

慶應義塾大学文学部は、組織的には、5つの学系に17の専攻(哲学系:哲学、倫理学、美学美術史学/史学系:日本史学、東洋史学、西洋史学、民族学考古学/文学系:国文学、中国文学、英米文学、独文学、仏文学/図書館・情報学系:図書館・情報学/人間関係学系:社会学、心理学、教育学、人間科学)、さらに自然科学および諸言語の2部門から構成されています。また関連する大学院としては、文学研究科および社会学研究科があります。

文学部には140名を超える専任教員が所属しています。慶應義塾では、理工学部、医学部に次ぐ規模です。各教員は独創的な研究活動を活発に進め、国内外の専門的な各分野で注目を集める成果をあげています。

私たちの文学部は、人文社会学科の1学科制をとっています。学年定員800名の学生諸君は、専攻を特定することなく入学します。

1年次には自然に恵まれた瑞々しい日吉キャンパスにおいて、多彩な学問分野に挑戦します。それによって幅広くかつ豊かな教養を形成するともに、「文」学部の知の基盤をなす語学の習得に努めます。学生諸君はこの1年間で、知的に、そして人間的に、さらに行動面でもそれぞれの世界を拡張してゆきます。

2年次以降は、落ち着きのある洗練された雰囲気をもつ三田キャンパスにおいて、17専攻のいずれかに所属し学びます。卒業後の進路も意識しつつ、専門的で深遠な知の領域に進んでゆきます。文学部が大切にしている教育の特色の一つに、少人数教育があります。ゼミ(研究会、演習)をはじめとして三田で開講される多くの授業科目は小規模で、教員と学生、さらに学生同士が親密な関係を保ちつつ、切磋琢磨しながら成長してゆくことができます。

「人間交際」のなかの
「文」(ことば)

福澤諭吉は、societyという概念を「人間交際」という日本語で表現しました。そして、学問にとりくむことの趣旨について、個人で充足するためではなく、「人間交際の仲間に入り、その仲間たる身分をもって世のために勉むるところなかるべからず」(『学問のすすめ』)と説きました。

文学部の「文」は、ひとりぼっちで机に向かい、黙々と本を読むことによって達成されるのではありません。慶應義塾大学文学部は、「文」(ことば)によって人と人をつなぐことをめざします。そして「文」(ことば)はまた、人と人とのつながりのなかで生成されます。文学部の「文」(ことば)は、人間交際を成立させる要です。と同時に、人間交際の躍動のなかで「文」(ことば)が構成されるのです。私たちの「文」(ことば)は、決してモノローグではあり得ず、人と人との交わりと、それが幾重にも重なり合う社会のなかで育まれ、その交わりや社会を紡ぐ媒体になります。

このように文学部の「文」(ことば)は、「人間交際」すなわち社会のあり方と緊密な関係をもちます。文学部の研究教育が多様な領域に開かれているのは、こうした知の躍動が現代社会のなかで無限の拡がりをもって展開してゆくからです。そしてその根幹には、さまざまな人々や社会がいろいろなものの見方や考え方をもつことを尊重する、という意思や姿勢が貫かれています。「人間交際」は他者への理解と配慮によって成立するからです。文学部の知の多様性は、そうした思想を基盤としています。

さらに文学部の知は、単に多様性や広領域性を特徴とするだけではありません。私たちの知は、人間と文化、社会、環境を成り立たせている根源を志向します。つまり事象の本質を追究するという姿勢です。そしてそれにはやはり「文」(ことば)が重要な役割を果たします。いわゆるグローバル化や情報社会の到来によって、変動が激しく流動化する社会や世界の動向があるからこそ、根源や本質を追究するという文学部の意義はますます重要になってきます。慶應義塾大学文学部の教員と学生は、ともに互いの「文」(ことば)を尊重しながら、事柄の本質を見極めるための知的探究に共同してとりくんでいます。