奈良絵本は、挿絵入りで書写された絵入り本で、室町時代後期から江戸時代中期に流行しました。浦島太郎や一寸法師など今も読まれているものもあります。奈良絵本は美術的な価値の高いものもあり、日本の重要な文化財なのですが、あまり研究されていません。いつ誰がどのように制作したかということすら、よくわかっていないのです。私はこの10年、奈良絵本の研究に取り組み、制作者を明らかにすることに挑んでいます。

奈良絵本を注文したのは大名や豪商などですが、本には制作者の署名などありません。ただ、当時の制作者の数は限られていました。探る手がかりは、文字の筆跡です。奈良絵本をデジタル画像化する絵入り本プロジェクトにより、筆跡の比較分類を中心に研究を進めてきました。その結果、特定できたのが浅井了意です。実は浅井了意は江戸時代前期の著名な作家でした。奈良絵本の筆跡と浅井了意の若い頃の筆跡を比較して、明らかに同じであるとわかり、彼が制作に携わっていたことが判明しました。

デジタル画像による研究で、もう一人明らかになった作者が、居初(いそめ)つなです。寺子屋の教科書である往来物の制作者として、江戸時代前期から中期に活躍した女性ですが、彼女が奈良絵本も作っていたのです。浅井了意は文章だけを書いて、絵は絵師が描いていたのですが、居初つなは文字も絵もかいていたところが注目されます。おそらく日本最初の絵本作家と言えるでしょう。

一般の人々にもっと魅力を伝えていきたい

奈良絵本や絵巻は美術品としても重宝され、多くの作品が海外に流出しています。オランダのシーボルトも買い集めていました。そのため私は海外の図書館や博物館・美術館を頻繁に訪れ、作品のデジタル化を進めています。日本でも作品が見つかる可能性はまだまだあります。そのため骨董屋や古本屋巡りは欠かせません。地方の骨董市ものぞいたり、デジタルカメラで撮影したりしています。

作品の発見は、新たな制作者の判明につながります。すでに名前はわかっている人がいるのですが、どんな人物かが不明です。研究を進めてこれを明らかにしたいと考えています。

奈良絵本は見ているだけで魅了されます。ただ、浮世絵と比べて、一般の方々に知られていないのが残念なところ。展覧会などを通じて、魅力を伝えていくのも私の重要な仕事だと考えています。

浅井了意が文章を書いたことが判明した
『蓬莱物語』の巻物。