心理学の中で、私は人の心を脳機能でとらえる「認知神経科学」という分野の研究をしています。脳科学の進歩は目覚ましく、脳の各部位の機能が明らかになってきていますが、私は感情と社会性のメカニズムを主に研究しています。

感情とは、喜び、怒り、驚きといった心の動きや気持ちを意味しますが、実は心臓がドキドキしたり手に汗をかいたりといった身体の自律神経活動と密接に結びついています。また、社会性とは、共感とか寂しさといった高次の感情に関連しており、コミュニケーションなどに深く関わっています。感情や社会性を担当している主な脳部位のひとつとして、前頭葉が挙げられます。病気や事故で前頭葉にダメージがおよぶと、感情や人格の障害が起こりますし、社会性の低下がみられる発達障害の人の脳を調べると、やはり前頭葉が関与していることがわかります。感情や社会性といった心の働きが、脳や身体のどのような活動と結びついているのかは、まだよくわかっていません。この謎を解くため、現在、我々の実験室には脳機能を画像でとらえるための装置や、身体のさまざまな生理活動を記録するための装置が完備されており、それらを利用した研究が体系的に進められています。その中でも私は上記の問題意識をもとに、脳損傷や発達障害の研究結果と比較しながら、脳と身体と心の複雑なメカニズムを解明しようとしています。

基礎的な研究の成果が
世の中でどのように役立つのか

こうした基礎的な研究を積み重ねることで、さまざまな臨床的応用の可能性がみえてきます。認知機能の障害を持つ人にどのようなリハビリテーションが効果的か提案したり、発達障害の人が抱える問題への対処の仕方や診断基準のもととなるデータを提供したりできます。また、自律神経機能に低下があると、それが不登校などにつながる可能性があることを示唆したり、さまざまな薬の開発や検査方法に寄与したりすることもできます。

前頭葉の機能に関するMRI研究。