古典ギリシア語とラテン語は古代ギリシア、ローマで用いられ、西洋文明の礎を培った言葉です。ヨーロッパ最古の哲学、歴史、文学、政治、法制度などを生み出しただけでなく、新約聖書がギリシア語で書かれ、東方教会ではギリシア語、西方教会ではラテン語を主要言語とするなど、キリスト教の発生と展開にも大きく寄与してきました。リベラル・アーツは古典古代に起源を有し、ルネサンス(=「ギリシア復興」)期に生まれた人文学 literae humaniores はギリシア・ローマの古典を学ぶ ことから出発しています。大学での学びそのものが、古代ギリシア・ローマに端を発すると言えます。慶應義塾でも Calamus Gladio Fortior(ペンは剣よりも強し)のモットーや東門の碑銘 Homo nec ullus cuiquam praepositus nec subditus creatur (天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず)など、大学の根幹に関わるところでラテン語が用いられています。
古典ギリシア語、ラテン語の学習は、近代のヨーロッパ諸語を学ぶ上でも有益です。古典ギリシア語は現代ギリシア語に、ラテン語はイタリア語、フランス語、スペイン語、ポルトガル語、ルーマニア語などのロマンス諸語に発展しました。そればかりか、英語やドイツ語など他のヨーロッパ諸語も、語彙や文体、修辞技法などの多くを古典ギリシア語、ラテン語に負っています。比較言語学やインド=ヨーロッパ語という考え方も、ギリシア語、ラテン語、サンスクリット語の比較から始まりました。ギリシア語・ラテン語学習がもたらす恩恵は計り知れません。
ギリシア語は古典古代の終焉後も、東ローマ帝国(ビザンツ帝国)の公用語となり、オスマン帝国時代にあっても途絶えることなく、今日まで存続しています。世界で最も長く歴史を辿ることのできる言語の1つです。今日、ギリシア共和国およびキプロス共和国の公用語、アルバニア共和国の一部地域の準公用語である他、トルコ共和国、イタリア共和国、オーストラリア、アメリカ合衆国などにも現代ギリシア語の母語話者がいます。カザンザキスの小説、セフェリスやカヴァフィスの詩、テオ・アンゲロプロス監督の映画など、日本で紹介されているギリシャ語作品は少なくありません。
慶應義塾大学は、現代ギリシア語を学ぶことができる日本で唯一の大学です。ネイティブの教員が初歩から丁寧に文法、読解、スピーキング、ライティングを教えてくださいます。
選択科目として古典ギリシア語、現代ギリシア語、ラテン語が開講されています。古典ギリシア語、ラテン語の初級は日吉、三田の両方のキャンパスで開講されており、年次を問わずいつでも学習を始められます。現代ギリシア語は全て三田での開講です。
*この他、西洋史専攻や哲学専攻でも古典ギリシア語、ラテン語を扱う原典講読の科目が設置されています。また「西洋古典学」、「西洋古典研究会」では古代ギリシア・ローマの作品について総合的に学びます(古典ギリシア語、ラテン語の知識を要件としません)。